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名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)4704号 判決 2000年7月28日

原告

長谷川誠

ほか一名

被告

本山陸運合資会社

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告長谷川誠に対し金三四八七万三一七八円、原告長谷川喜代子に対し金三一〇三万三一七八円及びこれらに対する平成一〇年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その八を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告長谷川誠に対し金四四八三万一七六二円、原告長谷川喜代子に対し金三三九一万一三一二円及びこれらに対する平成一〇年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが左記一1の交通事故の発生を理由に被告らに対し民法七〇九条(被告生川)、七一五条(被告本山陸運合資会社。以下「被告会社」という。)により損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成一〇年一一月二五日午後〇時二四分ころ

(三) 場所 名古屋市天白区原二丁目三五〇六番地先路線上

(三) 加害車両 被告生川運転の大型貨物自動車

(四) 被害車両 亡長谷川晃子(以下「亡晃子」という。)運転の原動機付自転車

(五) 態様 追突

(六) 結果 亡晃子は本件事故により死亡した。

2  責任原因

(一) 被告生川は前方注視義務を怠った過失により被害車両に追突した。

(二) 被告会社は、被告生川の使用者で、かつ、本件事故は被告生川が被告会社の事業の執行として加害車両を運転中に惹起したものである。

3  当事者

原告らは亡晃子の父母であり、その相続人(相続分各自二分の一)である。

二  争点

1  過失相殺

(被告ら)

亡晃子は第一、第二車線にそれぞれ停止している車両の間を通り抜けるように進行し、信号待ちのために前車に続いて停止している被告車両の直前に停止したものであり、この走行方法及び停止位置も本件事故発生の原因となっているとして過失相殺を主張する。

(原告ら)

亡晃子には本件事故発生につき何の過失・落ち度はない。被告生川は、アンダー・ミラー等を利用して自車前方の原動機付自転車等の有無に留意し、その安全を確認すれば、容易に被害車両の存在に気づくことができたのであり、また、発進直後に衝突音に気づいていたにもかかわらず問題はないものと軽信して停止することなく加速進行したものであって、この点でも同人の過失は重い。

2  原告らの損害

第三争点に対する判断

(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  争点1(過失相殺)

1  証拠(甲四ないし六、乙一ないし六)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、片側二車線の県道岩崎名古屋線(以下「本件道路」という。)上の平針西口交差点から西方約五〇メートルの地点である。

(二) 被告生川は加害車両を運転して本件道路の第一車線上を西から走行して本件事故現場付近に至ったが、前方の平針西口交差点の信号が黄色表示から赤色表示に変わるのを確認したため、前方車両に続いて本件事故現場の西側で停止した。信号待ちの車両は被告生川の前に四台ほどあった。加害車両と前方の車両との間は約五メートルほど空いていた。

(三) 第一車線上で加害車両が停止した後、第二車線にも順次信号待ちの車両が停止していったところ、本件道路を西から走行してきた亡晃子は、これらの停止車両に追いつき、かつ、その間をすり抜けるようにして第一車線と第二車線の間を走行して前方に進み、停止している加害車両を右後ろから追い越して前に回り、加害車両の直前左側に停止した。

(四) 被告生川は、前方信号が青色表示となったことから前車に続いて発進したところ、加害車両の直前に停止していた被害車両に気づかずこれに自車前部を衝突させて転倒させて轢過した。

(五) 加害車両は、運転席からの目視では直近前下部に死角があるが、前方左に備え付けてあるアンダーミラーを使えばこの死角部分を見ることができる。被告生川は、前方の信号にしたがって停止する際にサイドミラーを確認して自車の周囲にオートバイなどがいないことを確認しているものの、発車する際には加害車両の周囲を確認することはしなかった。

(六) 被告生川は、発進時に衝突音を聞いているものの、走行中に空き缶などをよく踏みつけることがあったため、特に気にすることなく発進して加速したところ、何かを引きずるような音がしたことから急停止した。

2  右に認定の事実に照らすと、亡晃子は、前方の信号表示にしたがって停止している車両の側方を通過して当該車両の前方に割り込みをしてはならないとの注意義務(道路交通法三二条)に違反して走行し、加害車両の前方に入ったことが明らかであるのみならず、目視では確認が容易ではない大型車両の直前に原動機付自転車が停止することは発進時の追突や巻き込みの危険が大きいことは容易に予想し得ることからすると、亡晃子に全く落ち度がないとまでは言うことができず、被告生川が発進時にアンダーミラーで自車の前部を確認することにより容易に本件事故を回避できたこと、同人が衝突音に気づきながらも自車の周囲に気を配ることなく加速を続けた過失は大きいとしても、なお亡晃子には五パーセントの限度で過失を認めるのが相当である。

二  損害額

1  逸失利益(請求額五五八二万二六二四円) 四一三三万三〇〇六円

証拠(甲三、乙三)によれば、亡晃子は本件事故当時一九歳で四年制大学の一年に在学中であり、本件事故がなければ、平成一四年四月からは大学卒の資格で稼働したであろうこと、その稼働は将来的に主婦業などに形態を変えることがあっても稼働可能年齢まで稼働することを妨げる事情は見いだせないことに照らすと、亡晃子の逸失利益の算定に当たっては基礎収入を賃金センサス平成九年第一巻第一表・女子労働者大卒全年齢平均賃金四四八万六七〇〇円とすべきであり、これに稼働開始時である二二歳から稼働可能年齢六七歳までの四五年間について本件事故時からの中間利息を控除し(事故時から六七歳までの四八年間のライプニッツ係数一八・〇七七一から、事故時から大学卒業まで約三年のライプニッツ係数二・七二三二を控除した一五・三五三九を係数として使用)、生活費控除率を四〇パーセントとすると、逸失利益は四一三三万三〇〇六円となる(原告各自につき二〇六六万六五〇三円)。

4,486,700×15.3539×(1-40%)=41,333,005.8

2  葬儀費用(請求額・原告長谷川誠二二二万〇四五〇円)

原告長谷川誠につき一二〇万円

証拠(甲七の1、2及び6)及び弁論の全趣旨によれば、原告長谷川誠が亡晃子の葬儀費用として支出した額のうち一二〇万円を本件事故と相当因果関係に立つ損害として認めるのが相当である。

3  慰謝料(請求各自一二〇〇万円) 各自一二〇〇万円

弁論の全趣旨により認められる亡晃子の年齢、本件事故に至るまでの生活状況、前記認定の本件事故の態様に照らすと、本件事故により亡晃子が死亡したことに基づく原告らの精神的損害は大きいものと認められ、これを慰謝するには少なくとも原告ら各自につき一二〇〇万円を認めるのが相当である。

4  小計

原告長谷川誠につき 三三八六万六五〇三円

原告長谷川喜代子につき 三二六六万六五〇三円

5  過失相殺

前記認定のとおり亡晃子について五パーセントの限度で本件事故の過失があると認めるから、原告らが被告らに請求し得る額は、右の額から五パーセントを控除した左記の額となる。

原告長谷川誠につき 三二一七万三一七八円

原告長谷川喜代子につき 三一〇三万三一七八円

三  損害の填補 原告長谷川誠につき三〇万円

原告長谷川誠につき本件事故による損害の填補として三〇万円が支払われたことは当事者間に争いがない。

四  弁護士費用(請求額・原告長谷川誠につき三〇〇万円) 三〇〇万円

弁論の全趣旨及び右に認定した損害額に照らし、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用としては三〇〇万円の限度で認めるのが相当である。

五  結論

以上によれば、原告らの請求は、原告長谷川誠については三四八七万三一七八円、原告長谷川喜代子については三一〇三万三一七八円及びこれらに対する本件事故の日後であることが本件記録上明らかな平成一〇年一一月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

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